誰かの日常

どっかの誰かが考えていること。どっかの誰かが悩んでいること。どっかの誰かが生きていること。脳内で生成させる誰かの日常を切り出した永遠の中二病ブログ

物語を書かせて頂きました

 

今回はツイッターでお見かけしたからんころんさんという方の絵が目にとまり、眺めていたらタイトルが浮かんだので、許可を頂いて物語をつけさせて頂きました。

❇︎

 

『俺は絶望を知っているから』

 

よく晴れた午後の日。日常から抜け出した私は、お気に入りの花畑で、死にかけの影と出会った。

影は自分の事を『カナエ』と名乗った。

「なぜそんなところで苦しそうな顔をしているの?」と聞いたが、カナエは答えてはくれなかった。

 

数百年前までは、人間と影が共存する世界などあり得なかった。

影とは悪魔を指し、人から寿命を吸い取って生きている。

2XXX年代は特に影の動きが活発で、人からしてみればたまったものではなかった。

何処かの国の偉い発明家が、影の侵入を100%ブロックできる明かりを発明し、そのおかげで影被害は減った。

夜に出歩くときはその明かりを搭載した懐中電灯を常備させる事で、影は人間に手出しができなくなり、影の数は著しく減ってしまった。

“このままでは影は全滅してしまう”そう思った影の王は、人間界の王様達に交渉を申し出た。

影の王は弱点である陽の光に自分の体を晒す事で、今回の交渉が命をかけた交渉であると全世界に知らせた。

その甲斐もあり、一部の王様は影の王の交渉に応じるようになった。

それがきっかけで今の世界になった。影と人間は共存し、お互いに助け合いながら生きている。

というのは表面。影の王と王様達が結んだ契約は3つの条件によって維持されている。

 

1条、影は人間の寿命を故意に奪ってはならない。たとえ数秒でも処罰の対象になる。

2条、影は自殺志願者の寿命のみ、譲り受ける権限を持つ。がしかし、本人の承諾が取れても、血縁者の承諾が得られない場合は、この権限は適応しない。

3条、2条までは守られている間、人間は影を殺してはならない。

 

以上だ。しかしながら、この3条は国民には開示されておらず、あくまでも別な形で影の脅威は取り去られ、共存が叶っていた。

 

 

私はどうしてもカナエを助けたくなった。

幸いにも家には誰もいない。一人暮らしの私が影を連れ帰った所で誰にも迷惑はかけない。

「私についておいで」

そういうと、カナエは乱れた呼吸のまま私を睨んだ。

「大丈夫。私は悪い人じゃないから、面白半分で影を殺したりはしないよ」

にっこり笑って見せたが、カナエは唾を吐き捨てて、そっぽを向いてしまった。

その態度が気に入らなかった私は、カナエの手を握った。

「ほら…こんなこともできてしまう」

驚いたカナエは即座に後ずさった。乱れていた息も今ので整ったようだ。

「お前、自分が何をしたのか分かっているのか?」

「えぇ。今のでどれくらいの寿命を貴方に渡せた?」

「……1ヶ月だ」

「今の一瞬でそんなに…。でもいいの。貴方、元気になったみたいだから」

私はそう言って笑った。

 

❇︎

 

彼女は自分の名を『アキナ』と言った。

影の特性を知りながら自分で俺に触れてきた頭のいかれた野郎だ。

おそらく人間と影の間に結ばれた3条を知らないんだろう。

しかしながら助けられた事実に変わりはない。俺の尽きかけていた寿命は1ヶ月延長された。

「影は人間の寿命以外では生きられないの?」

「そんな事はない」

「食べ物は食べれるの?」

「食べられるが味は感じない」

「空を飛べるの?」

「飛べる奴もいる」

借りを返すべくアキナの家に行くことになった道中、どうでもいい質問を山ほどしてきた。

アキナは俺が怖くないのだろうか。大抵の人間は影を怖がるが、アキナは全くその様子を見せなかった。

 

「貴方達影は、どうやって生まれるの?」

その質問が来たのは、アキナと暮らし始めて10日後の午後だった。

「……それを知ってどうする」

「別に?気になるだけよ」

アキナは俺の前に淹れたてのコーヒーを置いて、向かいの席に腰掛けた。

 

「影はどのように生まれるんだ?」

数百年前も、1人の王様が影の王に聞いた。

「それは…知らない方がいいかもしれませんよ」

「何故だ?」

「知って後悔しないのであれば、お教えしますが…」

「覚悟は出来ておる。話してみよ」

「影は…人間の発する憎悪から生まれるのであります」

影の王の言葉にその場に出席した王様全員がざわついた。

「なんと…」

「そうなのです。影は人間が作りし悪の塊。人が存在する限り、影は必ず存在するのです」

 

コーヒーを一口啜り、「それは知らない方がいい」と俺は言った。

「そう。それよりもコーヒーはどう?」

「前も言ったが、俺たちに味を感じる器官はない」

そういうと、アキナは微笑んだ。何を考えているのか分からんやつだ。

「そう言えば貴方、あとどれくらい生きられるの?」

「お前から貰った寿命分だ」

「そんなんじゃなくて、正確な時間が知りたいのよ」

めんどくさい奴だ。

「残り21日と10時間。それが俺に残された時間だ」

「そう…」

アキナはそう言って窓の外を見つめた。短い金髪が風で靡いている。

何を考えているか分からん奴だが、俺を見て言ったアキナの言葉で、俺はさらにこいつが分からなくなった。

「じゃあ、私の残りの寿命全部あげるね」

 

❇︎

 

最初に私が死を覚悟したのは、数年前に伝染病が蔓延した時だ。

 

私の村は山と山の間にポツンとある小さな村だった。

気候は安定しているけど、季節によっては猛烈な風が吹く場所だった。

それを利用した水車がたくさんあり、小さな村ながらも、観光地としてちょっとした人気があった。

夏の気配が去り、自然が色づき始めた頃、私の村で1人目の犠牲者が出た。

患者は全身から血を吹き出して死んでいた。旧型の病名はエボラ出血熱。この病気は20XX年代に治療法が見つかり、薬の服用で治るレベルの病気になっていた。

しかしこの村で起きたエボラ出血熱は薬への耐性があったため、感染者は99%死んでいった。

 

「その生き残りが私なの」

そう言うとアキナは、戸棚の引き出しから錠剤を取り出した。

「特効薬はなかったんだろ?」

「えぇ。今でもないわ。これはあくまでも病気の進行を遅らせる延命治療でしかないのよ」

その証拠にと、彼女は服を脱いだ。

それは影の俺から見ても酷いもんだった。胸の下から土手腹にかけて、赤黒い斑点に覆われていた。

「最近はずっと考えていた。私の寿命は長くない。最後の最後は苦しんで死ぬことになる。どうやったら苦しまずに死ねるんだろうって。そんな時にあなたと出会ったのよ」

そう言ってアキナはいつものように笑った。

 

❇︎

 

影にも感情はある。

人間の負の感情から作られているのだから当然だ。

その代償なのかどうかは分からないが、嬉しいや楽しいという感情を感じることはできない。

しかし悲しみや辛さは痛いほど分かる。どうしてやる事もできないが。

 

❇︎

 

カナエと暮らし始めて20日が過ぎた。

寿命をあげると言ったのに、カナエは一向に私の命を奪う気配はない。

時間がないと何度も言ったのに聞く耳を持たない。それどころか、私が寝静まった頃じゃないと姿を見せなくなった。

だから今日は狸寝入りをしている。しばらくして、カナエが部屋を移動する気配がした。

……恐らく、目の前にいる。見下ろされている気がする。

「アキナ」

カナエが私の名を呼んだ。もちろん私が返事をする事はない。

「俺はお前の寿命が見えるわけじゃない。だからお前があとどれだけ生きていられるかなんて分からない。ただ、数日間考えて、答えが出た」

……言葉が止まった。私が起きているのがバレてしまったのかもしれない。

「俺がお前から寿命を譲り受ける事はない。そもそも人間と影の間には、守らなければならない3条の約束がある。そう簡単に寿命は奪えない。アキナが俺に触れたあの日、強制的に3条に反したことになる。死ぬはずだった俺が生きていることが他の影に知れれば、俺は消え去ることになるだろう。だから…お前の寿命を返す事にした」

 

“俺は絶望を知っているから”

 

❇︎

 

よく晴れた午後の日。日常から抜け出した私は、お気に入りの花畑に来ていた。

もう一度カナエに会えるのではないか。毎回そう思ってきてはみるが、まだ叶った事はない。

 

結論から言うと、あの日、カナエが私に何をしたのかはわからない。

狸寝入りをしていたはずが、目を開けると朝になっていて、カナエはいなくなっていた。

歯磨きをしたり、朝食を食べているうちに出てきてくれるかなと思ったが、出てこない。

仕方なく服を脱いだ時、鏡に映る私の腹に違和感を覚えた。新型エボラの赤黒い斑点がないのだ。

これには医者も頭を悩ませた。治るはずのない病が完治している。帰り際に医者が言った。

「もしかして、悪魔と取引でもしたのかい?」

冗談で言ったつもりだろうが、私は「あぁ、それでか」と手を打って納得した。

 

これは私の勝手な想像なのだけども、カナエは私の寿命ではなく、エボラの寿命を奪ったのだ。

エボラも病原菌として、生きている。その寿命を奪ったのだから、エボラは死滅。そのままカナエは姿を消した。

だから私はこうして今を生きている。生きられている。

 

“これからもしっかりと生きろ”

 

どこからかそんな声が聞こえた気がして、辺りを見渡すと、カナエのいた場所に咲いた小さな花2つが一瞬だけ、カナエの顔のように見えた。

「えぇ。ありがとう」

もう届かない言葉をその場に置き、私は帰路についた。

f:id:hokuto0606:20190303021653j:image

 

この絵から書かせていただきました。

素敵な絵師、からんころんさんのツイッターです。

からんころん (@Smile25_doll) | Twittertwitter.com

 

それでは。